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アラスカから旅立った星野道夫さんについて [おすすめ本]

龍村仁監督の『ガイアシンフォニー第三番 』のエッセーを読んだ。(映画は1997年製作)

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この本に心を鷲づかみにされた。
それは、半年前に行った和歌山の熊野本宮大社ではなく、
ポリネシア好きだからといってナイノア・トンプソンのハワイ大航路でもなく、
やはり星野道夫さんだった。
初めて彼の名前を読んだとき、なんて美しい名前なんだろうと想った。
星のもとで生まれて、道をつくっていった、そんな印象だった。
どの出演者よりも、彼のことに興味があった。

映画『ガイアシンフォニー第三番』は、星野さんを中心に構想されていたが、
龍村仁監督と打ち合わせをしてまもなく、彼は旅立った。
アラスカの早朝ヒグマに襲われ亡くなられた、と表現するには何もかもが足りない。

監督は、見えるものを通して、見えないものを撮る、と言っておられるが、
星野さんの肉体はもうない。見えないものをどうして撮るのだろうか。

それで、星野道夫さんの『森と氷河と鯨』を含む、星野道夫著作集4を読んだ。
『森と氷河と鯨』(全集は表紙・裏表紙とも雪色なので、こちらを載せます)

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     「霧のような雨に包まれた南東アラスカの森を歩く。
      ・・・ 
     森の主人公とは、天空に向かって延びる生者たちだけでなく、
     養木となって次の世代を支える死者たちのような気さえしてくる。
     生と死の堺がぼんやりとして、
     森全体がひとつの意思をもって旅をしているのだ。」

本の一行目から、美しい文章が続く。心に響く美しい言葉。どれを読んでも響く。
私も旅しているように、そこに立ち止まり、同じ風景を見ているようにさえ感じる。
アラスカの自然を通して、空気の向こう側を見透かしているような感覚・・・
極北という自然をテーマに、写真という手段を通して、この大地を表現したい、
と書いておられたが、まさにその通りだと思った。
写真はまだ見ていないのが信じられないけど、写真家としての彼の写真を見たら、
その美しさに動けなくなってしまうのではないか、と予感している。

ガイアシンフォニー第三番の副題は、『魂の旅』。
間違いなく魂の旅であることに、この一冊の本の一行一行を読むたびに気づかされた。
龍村監督の伝えたかったあの一行やあの言葉の奥に、少し触れられた気がする。

星野さんは、若いころからヒグマやアラスカの自然や野生動物に魅せられていた。
彼は、「ワタリガラス」がなぜ、アラスカのインディアンたちの伝える創世神話の主人公なのか、
アラスカとシベリアが陸続きだった大昔、ここを渡っていったモンゴロイドが伝えたのではないか、
と、調査をしはじめたときに、この世を去られた。
いや、みんなの言うように、彼の魂がヒグマと一緒に新しい旅に出たんだと思う。
魂は旅をし続けるのだ、と強く感じた。

映画は来月観る、龍村監督の講演とともに。
予告編をたった今見た。
心の奥底から響くボブ・サムの、
Don't be afraid to talk about spirits!
という声で、そうだ、映像を見るんだ!と改めて気づいた。
人の言葉をを私の言葉で読むのではなく、
本人の心が発する言葉として聞くことの有難さと大切さを知る。

龍村監督は、エッセーの中で、映像を通して人は世界中のあらゆる所を見れるようになったけれど、
その場に行き、空気を感じて体験することとは大きな違いだ、と書かれている。
ガイアシンフォニーは監督自身の深い魂の旅でもあるけれど、
自分が旅を始めなければ、それを観るだけに終わってしまう。
私自身が旅をする。
そうであれば、星野道夫さん出会えたことが、私の体験かもしれない。
彼の人生は私は触れたことがないし、私の人生とも全く違うけれど、
彼の旅を、彼の言葉で読めたこと、それだけで嬉しい。

星野さんは、アラスカの冬が好きだと言っている。
マイナス50度になる過酷な冬。朝10時に陽がのぼり、14時には沈む。
長い夜。厳しくて越せないものは落ちていく。
距離的だけではない、東海岸の人間はアラスカをアメリカだと思っていない。
(このたった一行を理解するのに、私は数年もかかっている…)

     「同じ春が、すべての者に同じよろこびをあたえることはないのだろう。
     なぜなら、よろこびの大きさとは、
     それぞれが越した冬にかかっているからだ。
     冬をしっかり越さない限り、春をしっかり感じることはできないからだ。
     それは幸福と不幸の在り方にどこか似ている。」

それぞれの魂、それぞれの旅。


さて、星野道夫全集(全五巻)を勢いよく読んでいます。
星野さんの生き方に触れられたことは感動に値する。
生きることはこんなにも力強く感動的なんだと、気づかせてくれた。

彼のご家族や身近で支える人々、彼が彼であるために在った自然と生物に感謝し、
私が彼と出会うことができたすべての要因に感謝します。
それがいったい誰なのか、私もそろそろ気づいています[かわいい]



--- カリブーエスキモー シャーマンの言葉 ---


唯一の正しい知恵は、人類から遥か遠く離れた大いなる孤独の中に住んでおり、

人は苦しみを通じてのみそこに辿り着くことができる。


The only true wisdom lives far from mankind,

out in the great loneliness,

and can be reached only through suffering.


--- Caribou Eskimo, Shaman--- 




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aura-aura

星野道夫さんの本、いくつか読んだことあります。私も大好きです。
アラスカの風景が目に浮かび、美しい言葉、フレーズが心に響きますよね。
by aura-aura (2009-11-11 02:04) 

もののけ

よく、これまでガイアシンフォニーも星野道夫さんも知らず生きてこれたなと、
自分自身に感心しているところです!

今こうして、星野さんの人生に触れたり、
新しい出会いを通して、はじめていろんな物事が、
自分の中で統合しています。

ピュアに優しく心に入ってくる文章を書く、
彼の魂に触れられて、私も喜んでいるところです・・・。
アラスカ、行ってみたくなりましたね!
by もののけ (2009-11-13 10:40) 

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